「狂拡大」前提の広角レンズ選び・2機種比較

皆既日食のタイムラプスを撮るのに2本の高性能広角レンズを検証したので、メモを残しておきます。
検証したのは
SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art

TAMRON 24mm F/2.8 Di III OSD M1:2
です。

今回2024/4/8の日食、撮影予定地・固定撮影で全過程を撮るには、画角を計算すると28㎜より短い広角レンズが必要でした。
一方、こういった画角のレンズでは太陽や月の写るサイズはものすごく小さくなります。欠けていく太陽の「形」もくっきり写すには、高解像度のカメラと、それに見合った解像性能のレンズが必要になってきます。

まず、カメラは超高画素の SONY α7RⅣ をレンタル。有効画素数は約6100万画素(9504 x 6336)。20㎜で撮った風景写真で一部を切り出してみても、十分な解像度があるのが分かります。

これで原寸切り出し。これだけ画素があれば、計算上20㎜レンズで視直径 0.5度の太陽は約60ピクセルの直径を確保できることになります。

こちらは同じカメラ・レンズの組み合わせで、風景とNDフィルタによる太陽像を合成したもの。写真における太陽の大きさはこんなに小さいです。

だた、狂拡大が前提なので、拡大してボケていると意味がありません。
そこで、星景写真で評価の高いらしい『SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art』と、こちらの「α7R4/R5の解像度を最大限活かせるレンズ(意訳)」と言う記事でトップ評価のある『TAMRON 24mm F/2.8 Di III OSD M1:2 』の2本をレンタルし、比較検証しました。

素のレンズ性能を見たいので、色収差補正、歪曲収差補正、露出補正、手振れ補正、などカメラ側のインテリジェントな補正機能は全てOFFにした上で、NDフィルタ越しの太陽の形について、狂拡大性能を確かめてみました。

ポイント1:解像性能

これは 9504 x 6336 pxの写真から太陽が写っている周囲 100×100 pxをそれぞれ切り出したもの。
原寸で表示しています。
太陽の位置はほぼ画面中央です。
どちらも狂拡大とは思えないほどシャープな輪郭です。TAMRONの方は若干色収差が見れますが、ここまで狂拡大しないと見えないレベルです。(TAMRONはND100を2枚使ってるので、像が甘くなるのは仕方ありません。)

SIGMA 20㎜ (f4,1/1000s, ISO200, ND100000, α7RⅣ)

TAMRON 24mm(f4, 1/8000,ISO50, ND100 x2枚, α7RⅣ)

ポイント2:フォーカスの追い込みが簡単か

そもそも被写界深度の深い広角レンズだけど、狂拡大メインなのでフォーカスを追い込む必要がありました。カメラには電子モニターしかないので、解放絞りで拡大率を上げてもほとんどフォーカスの山が分からない。
そこでバーティノフマスクで追い込むことに。といっても普通のバーティノフマスクは役に立たないので、透明プラバンにカッターで30度ほどずらして平行傷をつけた自作マスクを作成してみました。試しにシリウスを入れて、モニタを虫眼鏡で拡大してみると、ちゃんとマスクが機能していました!

これはSIGMA 20㎜、TAMRON 24㎜、どちらも同じように追い込むことは可能でした。

ポイント3:フォーカスの保持は可能か

さて、問題は、夜のシリウス+バーティノフマスクで追い込んだフォーカスを昼間の太陽撮影までキープしておく方法です。テープでフォーカスリングを固定してもどうしても少し動いてしまう気がします。

ところが、なんとSIGMA 20㎜にはフォーカス・スイッチがある!
(SIGMAサイトより引用『「LOCK」にするとフォーカスリング操作が無効となる、MFLスイッチを新たに搭載。マニュアルフォーカスで合焦後にフォーカスリング操作を無効にすることで、フォーカスリングを動かしてピントがずれてしまうなどの誤操作を防止します。』)

写真は製品ホームページより

これがすごい。スイッチをOFFにすると、現在のフォーカスのまま固定してくれる。うっかりフォーカスリングを触っても、カメラの電源を入れ直しても、レンズを外して付け直しても、フォーカスは全く動かない。これはすばらしい。コレが決め手となってSIGMAに決定しました。

一方、TAMRON 24㎜は、カメラの電源を入れ直すと、レンズが強制的に動き、ホームポジションにキャリブレーションされるように動きます。フォーカスリングをテープで固定しても意味が無いので、こちらは諦めました。結像性能は素晴らしいのに、残念。

余談:歪曲収差について

TAMRON 24㎜は「歪曲収差が酷く、カメラの収差補正をONにしないと使い物にならない」と酷評されている記事もありました。たしかにカメラの収差補正をOFFにすると、かなりの樽型の歪曲収差が目立ちます。しかし、、、

TAMRON 24mm

SIGMA 20mm

太陽を画面左上隅の角に近い場所にして写すと、「歪曲収差の大きい」TAMRON 24㎜は画面端でもほぼ円に写るのに対して、「歪曲収差の小さい」SIGMA 20㎜は、中心から離れる方向に引き伸ばされて歪んでしまいました。
写すものが星で「点像」なら気にならないかもしれませんが、日食・月食を写すならなら、あえて歪曲収差が大きいレンズを使うという方法もあります。
(ただし、画像処理アプリで歪曲収差を「逆」補正して、樽型にすると、引き伸ばされた太陽像は当然ながら「円」に近づきますので、画像処理が前提であれば歪曲収差はあまり気にしなくてもよさそうです。)

まとめ

SIGMA 20㎜は描画性能も素晴らしいが、フォーカスロック・ボタンが素晴らしすぎる。









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